共通論点

生成AIと著作権は試験ごとにどう問われるか(学習・生成と利用・生成物)

生成AIと著作権が、新しいITパスポート試験、データマネジメント試験(仮称)、PD試験(仮称)マネジメント区分、生成AIパスポートのシラバスでどう扱われているかを比べます。文化庁の「AIと著作権に関する考え方について」の3つの段階に沿って整理しました。

結論:AI特有の論点まで扱うのは生成AIパスポート。IPAの3試験は、著作権の基本をどの深さで使うかが違う

生成AIと著作権を、AIに特有の論点(AI学習と著作権、AI生成物の著作物性など)として学習項目に挙げているのは、4つの試験のうち生成AIパスポートだけです。IPAの3試験のシラバス案は、著作権法をAIに限らない用語として置き、DMだけがAIの利用の場面と結び付けています。

試験 シラバスでの扱い 問われ方の中心(当サイトの見方)
新ITパスポート(Ver.0.1) ビジネス関連法規に、著作権、著作権法、引用 著作権の基本と、引用が認められる条件
DM(Ver.0.1) 科目Bの1-5に、データ及びコンテンツの利用結果について著作権・知的財産権の留意事項を確認するスキル 使う前に、利用上の留意事項を確かめる行動
PD-M(Ver.0.2) 著作者人格権、著作財産権(複製権、公衆送信権など)、差止請求権、損害の賠償の請求。科目A-1の共通知識のシラバス案には、情報解析、非享受利用も 権利の種類と、侵害されたときの請求
生成AIパスポート(2027年2月試験から) 類似性、依拠性、AI学習と著作権、AI生成物の著作物性など 学習・生成と利用・生成物の段階ごとの考え方

IPAのサンプル問題に、著作権を問う問題はありません(2026年10月3日の時点)。生成AIへの機密情報や個人情報の入力は「生成AIの業務利用」で扱っています。この記事は試験の論点を整理したもので、個別の事案の判断は、弁護士などの専門家に相談してください。

公的な整理:学習の段階と、生成・利用の段階を分ける

この節の整理は、生成AIパスポートでは出題範囲に入り、ITパスポートとDMでは範囲外の補足、PD-Mでは学習の段階だけが範囲に入ります(各シラバスの用語例による)。文化審議会著作権分科会法制度小委員会は、2024年3月15日に「AI と著作権に関する考え方について」を取りまとめました。法的な拘束力はなく、公表時点の小委員会の考え方を示したものだと、文書の冒頭に書かれています。文化庁の概要資料は、論点を次の3つに分けています。

段階 関係する条文・要件 考え方の要点
AI開発・学習段階 著作権法第30条の4 情報解析など、著作物に表現された思想又は感情を享受することを目的としない利用は、原則として許諾なく行える。ただし、著作権者の利益を不当に害することとなる場合などは対象外
生成・利用段階 類似性と依拠性 AIで作った画像を公表したり販売したりするときは、通常の著作権侵害と同じ基準で判断する
AI生成物の著作物性 第2条第1項第1号(著作物の定義) 人が何ら指示を与えず(または簡単な指示を与えるだけで)AIが自律的に作ったものは、著作物に当たらないと考えられる。人の創作意図と創作的寄与があれば著作物になりうる

第30条の4が適用されないと考えられる例として、概要資料は、学習データの著作物と創作的表現が共通したものを生成させる目的で行う追加学習(意図的な過学習など)のためのデータの収集や、既存の著作物の創作的表現を出力させることを目的とした一部のRAGのためのデータの収集を挙げています(どちらも享受の目的が併存するため)。後者には、RAGによる回答の生成での既存の著作物の利用と、その準備としての複製・公衆送信は、第47条の5の要件を満たす限りで許諾なく行える場合がある、という注記が付いています。

試験の選択肢の正誤は、この3つの段階のどれの話かを先に決めると判断しやすくなります(当サイトの見方)。たとえば「AIの学習に使ったので、生成物を販売しても侵害にならない」は、学習段階の話(第30条の4)と利用段階の話(類似性と依拠性)を混ぜた誤りです。

新ITパスポート:AIに限らない著作権の基本と「引用」

ITパスポートのシラバス案(Ver.0.1)は、中分類28「ビジネス関連法規」の小分類1「知的財産権」に、著作権、著作権法、引用を置いています(p.18)。生成AIのリスクを扱う中分類27には、著作権の語はありません。生成AIと著作権を組み合わせた問題が出るなら、サンプル問4のように、分野の違う知識を1つの業務の場面で問う形になると当サイトは推測しています。

引用は、著作権法第32条第1項で、公表された著作物について、公正な慣行に合致し、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行うものとされています。

ここからは範囲外の補足です(ITパスポートのシラバス案の用語例は、著作権、著作権法、引用まで)。文化庁の整理では、AIを使った場合も、類似性と依拠性という通常の著作権侵害と同じ基準で判断するとされています。そのため、他人の文章を生成AIに要約させて社内資料に貼る場面でも、「AIを通したかどうか」ではなく、元の文章の創作的な表現が残っているか、残っているなら引用の条件を満たすか、という順で考えます(当サイトの整理)。

DM:使う前に、利用上の留意事項を確かめる

データマネジメント試験(仮称)のシラバス案(Ver.0.1)は、科目Bの「1-5. AI 活用におけるデータ利用上の留意事項への対応」に、データ及びコンテンツ(文章ファイル、画像、動画など)の自らの利用結果にリスクを生じさせないために、著作権及び知的財産権に関する利用上の留意事項を確認するスキルを挙げています(p.11)。科目Aの「その他の分野」の中分類28は、知的財産権の用語例として、著作権法、不正競争防止法、営業秘密、限定提供データを並べています(p.8)。

ITパスポートが「著作権とは何か」を問う水準なのに対して、DMは「自分が使う前に確かめる」という行動の水準です。当サイトの見方では、社外のニュース記事や他社の資料を、社内のRAGの参照データに取り込む場面が典型です。取り込む前に、そのデータの利用条件(社外秘か、AI学習を許しているか)を確かめるのは、科目Bの1-3の「利用条件」の確認と同じ動きです。範囲外の補足ですが(DMのシラバス案に、文化庁の整理や第30条の4は出てきません)、文化庁の整理でも、既存の著作物の創作的表現を出力させる目的のRAGのためのデータの収集は第30条の4が適用されないと考えられているので、取り込めば何でも使えるわけではありません。

PD-M:権利の種類と、侵害されたときの請求

PD試験(仮称)マネジメント区分のシラバス案(Ver.0.2)は、科目A-2(専門知識)の中分類28「ビジネス関連法規」の著作権法に、著作者人格権(公表権、氏名表示権、同一性保持権)、著作財産権(複製権、公衆送信権、展示権、頒布権、譲渡権、貸与権)、差止請求権、損害の賠償の請求を並べています(p.10)。ベルヌ条約やTRIPSなどの条約も同じ小分類にあります。ITパスポートやDMより、権利の中身を細かく問う水準です。科目A-1の範囲を示す科目A-1(共通知識)のシラバス案 Ver.0.1(2026年9月30日掲載)の著作権法には、引用、情報解析、私的使用、非享受利用も並んでいます(p.31)。情報解析と非享受利用は、第30条の4に関係する語です。

AIの用語はありませんが、文化庁の整理の場面に当てはめると使えます。当サイトの整理では、AIで作った画像を自社のサイトに載せるのは公衆送信、印刷して配るのは複製と譲渡に当たりうる利用です。当サイトの見方では、PD-Mでは、どの利用行為がどの支分権に当たり、侵害されたら何を請求されうるかを、管理する立場で説明できるかが問われます。

ここからは範囲外の補足です(文化庁の整理のうち、PD-Mの範囲に入るのは、科目A-1の用語例の情報解析・非享受利用に関わる学習段階まで)。生成物が既存の著作物と類似し、依拠性もあれば、既存の著作物の著作権者の公衆送信権・複製権・譲渡権が問題になります。概要資料によると、侵害が生じた場合、権利者は侵害した者に対して、新たな生成や生成物の利用の差止め、生成物の廃棄を請求でき、一定の場合にはAI開発事業者に学習用データセットからの除去を請求できると考えられています。

生成AIパスポート:AI特有の論点が、詳細キーワードに並ぶ

GUGAの生成AIパスポート試験シラバス(2027年2月試験より適用。2026年10月1日公表)は、第4章に「著作権・知的財産・生成物の権利」の項目を置き、生成AIの入力・生成・利用の各段階で関係する著作権や知的財産権、AI生成物の権利を学習目標にしています(p.5)。学習項目には、著作権侵害とAI生成物の類似リスク、AI学習と著作権、第三者コンテンツをAIに入力するリスク、引用・転載・要約・翻案の違い、AI生成物の権利帰属と人の創作的関与があります。

詳細キーワードの類似性、依拠性、権利制限規定、創作意図、創作的寄与、AI生成物の著作物性は、文化庁の整理で使われている語とそろっています。第2章の学習データの課題の詳細キーワードにも著作権が入っています(p.2)。IPAの3試験との違いは、肖像権、パブリシティ権、利用規約、商用利用・社外公開前の確認まで、生成AIを使う場面に即して1つの項目にまとめている点です。

学ぶ順番:条文の基本 → 確かめる行動 → 権利の中身 → AI特有の論点

学ぶ順番

  1. ITパスポート条文の基本著作物の定義と引用の条件
  2. DM確かめる行動取り込む前にデータの利用条件を確かめる
  3. PD-M権利の中身支分権を、掲載・配布などの行為と結び付ける
  4. 生成AIパスポートAI 特有の論点類似性と依拠性、第30条の4、著作物性
図:この記事が勧める学ぶ順番。各段の詳しい説明は、図の下の文章にある。

ITパスポートの段階では、著作物の定義(思想又は感情の創作的な表現)と、引用の条件(公表された著作物、公正な慣行、正当な範囲)を言えるようにします。DMを受けるなら、そこに「取り込む前にデータの利用条件を確かめる」を足します。文化庁の整理の3つの段階はDMのシラバス案の範囲外の補足ですが、表で書けるようにしておくと、AIの利用の場面の選択肢を段階で切り分けられます。

PD-Mを受けるなら、支分権の名前を、AI生成物を使う行為(サイトへの掲載、印刷物の配布)と1つずつ結び付けます。生成AIパスポートを受けるなら、類似性と依拠性、第30条の4の「非享受目的」とただし書、著作物性の創作意図と創作的寄与を、文化庁の概要資料と突き合わせて確かめます。概要資料は「考え方」の本体を要約したもので、正確な記載は本体で確認するよう資料自身が求めています。

参考にした資料(9件)

文化審議会著作権分科会法制度小委員会(確認)

デジタル庁(e-Gov 法令検索)(確認)

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