共通論点

顧客体験(CX)は試験ごとにどう問われるか(課題の主語を読む)

顧客体験(CX)が、新しいITパスポート試験のシラバス案(顧客への共感を含む)とPD試験(仮称)マネジメント区分のサンプル問題でどう扱われているかを比べます。「業務の効率化」と「顧客体験価値」を見分ける読み方と、CXという略語の注意点をまとめました。

結論:ITパスポートは「顧客の立場に立つ」姿勢、PD-Mは「誰の課題を何で解くか」の読み取り

このサイトでは、顧客体験(CX)を、商品やサービスを知ってから、買い、使い、手放すまでの一連の流れの中で、顧客が感じる価値という意味で使います。新ITパスポートでは、CXは社会の変化を表す用語として、顧客への共感はマインド・スタンスの行動例として出てきます。PD試験(仮称)マネジメント区分では、デジタル戦略の問題の中で、取組の目的が業務の効率化なのか顧客体験価値なのかを読み分ける形で問われました。

試験 どこで出てくるか 問われ方
新ITパスポート シラバス案の「顧客価値の変化」「顧客・ユーザーへの共感」 用語の意味と、顧客の立場で課題を見つける行動
PD-M サンプル問1(地域MaaS) 本文の課題の主語から、目指す価値を選ぶ

ITパスポートのサンプル問題4問には、CXを直接問う問題はありません(2026年10月3日の時点)。

新ITパスポート:CXは用語、共感は行動として出てくる

ITパスポート試験のシラバス案(Ver.0.1)は、ビジネス変革の方法論の「顧客価値の変化」に、顧客行動の変化、体験価値の重視、顧客体験(CX)、購買行動の変化を並べています。モノの機能や価格だけでなく、体験そのものが価値として選ばれるようになった、という社会の変化を表す言葉です。

同じシラバス案のマインド・スタンスの小分類には、「顧客・ユーザーへの共感」という行動例があり、顧客・ユーザーに寄り添い、その立場に立ってニーズや課題を見つけようとしていること、とされています。マインド・スタンスの分野のサンプル問1は、場面の中で望ましい行動を選ぶ形でした。同じ形で共感が問われるなら、提供する側の都合ではなく、顧客の立場から課題を探す選択肢を選ぶ形になると当サイトでは見ています。

デザインのアプローチの分野には、カスタマージャーニーマップやサービスブループリントも用語例として入っています。カスタマージャーニーマップは、顧客がサービスに触れる一連の場面を時間の順に並べ、場面ごとの行動や感情を書き出す図です。次のPD-M問1の「一連の顧客接点」を考えるときにも使えます。

PD-M問1:課題の主語が観光客なら、答えは顧客接点の側

PD-Mのサンプル問1は、Z県が設立したY法人が、地域MaaSで鉄道・バス・観光施設の検索、予約、決済をスマートフォンのアプリからワンストップで提供する事例です。Y法人が実現しようとしている内容を、対になった6つの文から3つ選びます。正解はエ((一),(四),(六))でした。

組 正解 誤答
つなぎ方 (一)相互連携 (二)垂直統合
変えるもの (四)一連の顧客接点をデジタル技術でつなぐ (三)交通機関や観光施設の業務改革
成長の源 (六)顧客体験価値の創出 (五)各事業者の業務の効率化

決め手は、本文の課題の主語です。観光客の多くがマイカーやレンタカーを使うため渋滞が起き、観光客の満足度の向上が課題になっていました。さらに、乗継ぎのたびに運賃を現金で払う必要があり、観光施設や宿泊施設でもキャッシュレス決済が十分に普及しておらず、訪日外国人や若年層を中心とした観光客から不満の声が上がっていました。困っているのは観光客で、Y法人の目的も「観光客の満足度を向上させて」来訪者を増やすことです。本文は、観光客が事前の計画から現地での移動、観光体験、決済までを1つのアプリで完結させることで、顧客体験価値を創出する、と書いています。

誤答の(三)と(五)は、変える対象を事業者の業務に置いています。デジタル化を「業務の効率化」と読む癖があると、自然な文に見えます。(五)と(六)は途中の一句だけが違い、「業務を効率化し」か「顧客体験価値を創出し」かで分かれます。

PD-Mのシラバス案(Ver.0.2)の科目B「1-2」はデジタル技術を活用したビジネスモデルの策定を、「1-3」は顧客体験(CX)を向上させるための顧客エンゲージメントの活用と評価を挙げています。IPAは出題趣旨で、この問題を、ワンストップの顧客接点を通じて顧客体験価値を創出するデジタル戦略の企画・推進を題材に、新たな価値の創出を実現する仕組みを企画する能力を評価するものとしています。

データは体験を良くするために集める

PD-M問1の本文には、顧客接点が1つのアプリに集まることで、移動履歴や滞在時間などのデータをより高い精度で分析できるようになり、混雑情報の可視化や運行計画の見直しの提案につなげる、とも書かれています。ここでもデータを使う目的は、事業者の業務の効率化ではなく、顧客体験価値の向上です。

当サイトの見方では、ここには循環があります。体験の流れを1か所に集めると、どこで顧客が困っているかがデータで見えるようになり、それをまた体験の改善に使います。顧客接点がばらばらのままだと、乗継ぎのどこで時間がかかっているかは、どの事業者のデータにも全体としては残りません。

「CX」の略語に注意:PD-Mのシラバス案では2つの意味がある

PD-Mのシラバス案(Ver.0.2)では、CXが2つの意味で出てきます。科目A-2(専門知識)のビジネス変革の方法論の「社会の変化」では、コーポレートトランスフォーメーション(CX)が、GX(グリーントランスフォーメーション)、AX(AIトランスフォーメーション)と並んでいます。一方、科目Bの「1-3」のCXは顧客体験です。

ITパスポートのシラバス案では、CXは顧客体験の意味で使われています。PD-Mの科目Aで「CX」とだけ書かれた選択肢が出たら(当サイトの想定で、サンプル問題にはまだありません)、DXやGXと並んだ企業変革の文脈か、顧客や体験の文脈かを、周りの語で確かめる必要があります。

学ぶ順番:用語と行動 → 課題の主語 → データの使い道

学ぶ順番

  1. ITパスポート用語と行動CX・体験価値・カスタマージャーニーマップ
  2. PD-M課題の主語困っているのは顧客か、業務か
  3. PD-Mデータの使い道分析の目的が本文の目的と同じ向きかを確かめる
図:この記事が勧める学ぶ順番。各段の詳しい説明は、図の下の文章にある。

ITパスポートの段階では、CX、体験価値、カスタマージャーニーマップの意味と、「顧客の立場に立ってニーズや課題を見つける」という行動例を結び付けて覚えます。

PD-Mを受けるなら、問1のような事例で、最初に課題の主語に印を付けます。問1のように困っているのが顧客なら、目指す価値は顧客体験の側にあると考えられ、業務の効率化を目的にした選択肢は外れやすくなります。そのうえで、データの分析が何のために書かれているか(体験の改善か、業務の効率化か)を確かめ、本文の目的と同じ向きの選択肢を選びます。

参考にした資料