共通論点

ハルシネーションは試験ごとにどう問われるか(用語・起きる理由・攻撃との区別)

生成AIのもっともらしい誤り(ハルシネーション)が、新しいITパスポート試験、データマネジメント試験(仮称)、生成AIパスポート、情報処理安全確保支援士試験のシラバスでどう扱われているかを比べます。似た用語の区別、起きる理由、攻撃による誤りとの違いをまとめました。

結論:ITパスポートは「似た語の区別」、DMは「出処の確認」、生成AIパスポートは「起きる理由」、SCは「攻撃による誤りとの区別」

ハルシネーションは、生成AIが事実と違う内容を、もっともらしい文章で出力することです。4つの試験のシラバスはどれも生成AIの誤った出力を扱っていますが、どの面から問うかが違います。

試験 シラバスでの扱い 問われ方の中心(当サイトの見方)
新ITパスポート(Ver.0.1) AIのリスク・脅威の用語例に、ハルシネーション、古い出力情報、根拠・出典不明の出力情報など 似た用語を、例と結び付けて区別できるか
DM(Ver.0.1) 科目Aにハルシネーションと「出典元データの出処を確認することの必要性」 出力を、元のデータまでたどって確かめるか
生成AIパスポート(2027年2月試験から) 第2章の学習目標に「ハルシネーションが起こる理由」 生成の仕組みから、なぜ誤るかを説明できるか
SC(Ver.0.1) SCのシラバス案にハルシネーションの語はない(科目A-1の共通知識のシラバス案にはある)。AIシステムへの攻撃として、間接プロンプトインジェクションやデータポイズニング 誤りの原因がAI自身か、攻撃者か

IPAのサンプル問題に「ハルシネーション」の語はありません。生成AIの出力の誤りに触れているのは、新ITパスポート 問4のc(得られた情報に誤りが含まれるおそれ)だけです(2026年10月3日の時点)。出力を誰が確かめるかは「AIの結果の確かめ方」で、入力の側の留意点は「生成AIの業務利用」で扱っています。この記事は、誤りそのものの種類と原因を扱います。

新ITパスポート:ハルシネーションを、似た用語と区別する

ITパスポートのシラバス案(Ver.0.1)は、中分類27「情報倫理・AI 倫理」の小分類2に、AIのリスク・脅威の用語例として、ハルシネーション、古い出力情報、根拠・出典不明の出力情報、出力情報の再現性・一貫性の欠如を並べています(p.17)。同じ中分類の小分類1には、誤情報(ミスインフォメーション)と偽情報(ディスインフォメーション)もあります。

どれも「AIの出力をそのまま使えない理由」ですが、中身は別物です。当サイトでは次のように区別しています。

用語 何が起きているか 例
ハルシネーション 存在しない事実を、もっともらしく作る 実在しない論文の題名と著者を挙げる
古い出力情報 内容は以前は正しかったが、今は違う 改定前の料金や制度を答える
根拠・出典不明の出力情報 正しいかもしれないが、確かめる手がかりがない 数値に出典が付いていない
再現性・一貫性の欠如 同じ質問で、答えが毎回変わる 2回聞いたら別の結論になった

誤情報と偽情報の違いは、だます意図があるかです。ハルシネーションはAIに意図がないので、出力を人が広めれば誤情報の側に入ります。誰かがだますためにAIで作った文章なら偽情報です。当サイトの読み方では、選択肢で「意図的に」「悪意をもって」と書かれていたら、ハルシネーションの説明ではないと判断できます。

シラバス案はハルシネーションの対策として結び付けてはいませんが、対策に使える語もあります。中分類10「AI 利活用」の小分類3には、生成AIの活用領域の用語例としてランダム性の制御とRAGによる知識連携が、生成AIの活用例に「複数の生成 AI を用いた検証」があります(p.7〜8)。中分類18「AI 技術」には、検索拡張生成(RAG)とトークンが用語として入っています(p.14)。当サイトの見方では、ITパスポートの水準なら、RAGは外部の資料を検索して回答に使う仕組み、と説明できれば足ります。

DM:出力の出処を、元のデータまでたどる

データマネジメント試験(仮称)のシラバス案(Ver.0.1)は、科目Aの「その他の分野」の中分類27に、ハルシネーションと並べて「出典元データの出処を確認することの必要性」を置いています(p.8)。同じ中分類の情報倫理の側にはファクトチェックがあります。ITパスポートにない言い方で、データを扱う実務者には、AIの出力がどのデータから来たかまで確かめることを求めている、と当サイトはみています。

科目Bの「1-5. AI 活用におけるデータ利用上の留意事項への対応」では、誤情報、差別的出力、偏った判断など、AI利用結果に伴う倫理違反に関する組織のルールを守るスキルが挙がっています(p.11〜12)。たとえば、AIが社内文書を要約して「前年比12%増」と書いたら、その数字が載っている元の表を開いて、対象期間と集計の単位が同じかを確かめます。数字が元の表のどこにも見当たらなければ、ハルシネーションを疑います。

科目Aの中分類10の小分類3には、ランダム性の制御、RAGによる知識連携、システムプロンプトがあり、活用例に「複数の生成 AI を用いた検証」がある点はITパスポートと同じです(p.5)。DMの科目Bのサンプル問題に、この論点の問題はまだありません(2026年10月3日の時点)。

生成AIパスポート:なぜ起きるかを、生成の仕組みから説明する

GUGAの生成AIパスポート試験シラバス(2027年2月試験より適用。2026年10月1日公表)は、第2章「生成AI」の生成(推論)プロセスの学習目標に、ハルシネーションが起こる理由を挙げています(p.2)。学習項目は、トークン化、埋め込みとベクトル表現、確率的な次トークン予測、ハルシネーション、生成パラメータ(Temperature・Top-p)、コンテキストウィンドウです。

ITパスポートとDMが「誤りがある」ことを前提に扱うのに対して、生成AIパスポートは「なぜ誤るか」に踏み込みます。生成AIは、事実を調べて答えているのではなく、次に来るトークンを確率に基づいて選んで文章を組み立てています。そのため、学習データにない事柄でも、それらしい文章ができてしまいます。Temperatureは出力のばらつきを調整する値で、下げても正しさが保証されるわけではありません(当サイトの説明)。

第3章のRAGの項目では、詳細キーワードにハルシネーション、正確性、最新性が並び、RAGが必要とされる理由が学習項目になっています(p.3)。第4章の「AI出力の評価と検証」は、用途と影響度に応じた検証レベル、事実・数値・出典・最新情報を確かめるファクトチェック、採用・修正・破棄・専門家確認の判断を扱います(p.4〜5)。仕組み、技術的な対策、人の確認の3段で、1つの論点を章をまたいで扱う構成です。

SC:誤った出力が攻撃で起こされる場合と区別する

情報処理安全確保支援士試験のシラバス案(Ver.0.1)には、ハルシネーションという語は出てきません(2026年10月3日にPDFの全文を検索して確認)。ただし、SCの科目A-1の用語例は別の科目A-1(共通知識)のシラバス案 Ver.0.1(2026年9月30日掲載)にあり、こちらには中分類27のAIのリスク・脅威にハルシネーションとスロップスクワッティングが(p.31)、中分類21にパッケージハルシネーションが(p.28)入っています。SCのシラバス案のほうでは、中分類23の「AI システムに対する攻撃」に、プロンプトインジェクション(直接、間接)、データポイズニング、敵対的サンプルなどが並びます(p.3)。中分類26の「AI システムを守るための対策」には、外部参照データの検証と分離、RAG用のデータ及びデータストアへのアクセス制御があります(p.11)。

ここで生成AIパスポートとの向きが逆になります。生成AIパスポートでは、RAGはハルシネーション、正確性、最新性と並べて出てきます(ITパスポートのシラバス案では、生成AIの活用の用語例です)。SCでは、RAGが参照するデータそのものが攻撃の入口になりえます。参照先の文書に攻撃者が指示を仕込めば(間接プロンプトインジェクション)、AIが誤った内容を出力したり、意図しない動作をしたりすることがあります。結果は「誤った出力」で同じでも、原因はAIの性質ではなく攻撃者です。

当サイトの見方では、選択肢を読むときは、誤りの原因に第三者の操作があるかで分けます。操作がなければハルシネーション(出力の確認で防ぐ)、あれば攻撃(参照データの検証とアクセス制御で防ぐ)です。SCの科目Bのサンプル問題に、AIシステムの問題はまだありません(2026年10月3日の時点)。

学ぶ順番:用語の区別 → 出処の確認 → 起きる理由 → 攻撃との区別

学ぶ順番

  1. ITパスポート用語の区別4つの語を例と結び付ける。誤情報と偽情報は意図で分ける
  2. DM出処の確認出力の数字を元のデータまでたどる
  3. 生成AIパスポート起きる理由次トークン予測・Temperature・RAG との関係
  4. SC攻撃との区別RAG の参照データを、資料と攻撃の入口の両面から見る
図:この記事が勧める学ぶ順番。各段の詳しい説明は、図の下の文章にある。

ITパスポートの段階では、上の表の4つの語を、それぞれ1つの例と結び付けて言えるようにします。誤情報と偽情報は「意図があるか」で分けます。

DMを受けるなら、AIの出力の数字や記述を、元のデータのどこに書いてあるかまでたどる習慣を付けます。見つからないときに誰に報告するかは、自社のルールで確かめます。科目Bの1-5にも、問題を発見した際に関係部門に報告・相談するスキルがあります(挙げられている場面は、情報漏えい、不適切利用、利用制限違反です)。

生成AIパスポートを受けるなら、次トークン予測、Temperature、RAGの3つを、ハルシネーションとの関係で1文ずつ説明できるかを確かめます。SCを受けるなら、RAGの参照データを「誤りを減らす資料」と「攻撃の入口」の両面から見て、どちらの対策が問われているかを読み分ける練習をします。

参考にした資料(6件)

独立行政法人情報処理推進機構(IPA)(確認)

残りの3件を開く

一般社団法人生成AI活用普及協会(GUGA)(確認)