共通論点

インシデントと問題の切り分けは試験ごとにどう問われるか(暫定対応と恒久対策)

サービスやデータをすぐに使える状態へ戻す対応と、原因をなくす対応の区別が、PD試験(仮称)マネジメント区分とデータマネジメント試験(仮称)のサンプル問題でどう問われているかを比べます。回避策、既知の誤り、責任の所在の読み方をまとめました。

結論:PD-Mは手順のつながりを、DMは段階ごとの責任の所在を問う

PD-Mのサンプル問2は、記録と件数から働いていない手順を見つける問題で、DMの科目Bサンプル問1は、品質の問題への対応の段階ごとに報告先や責任を負う部門を選ぶ問題です。

インシデント管理は、止まったり使いにくくなったりしたサービスを、合意したサービスレベルの範囲でできるだけ早く元に戻す活動です。問題管理は、インシデントの根本原因を突き止めて、発生や再発を防ぐ処置を決める活動です。PD試験(仮称)マネジメント区分のシラバス案(Ver.0.2)は、この2つを科目Bの同じ項目「2-3」に並べています。

データマネジメント試験(仮称)のデータ品質の項目やサンプル問題には「インシデント管理」という言葉は出てきません(シラバス案では、情報漏えいのインシデントへの初動対応が別の分野に出てきます)。ただ、データ品質の問題を見つけたときの流れとして、報告、暫定対応、恒久対策、メタデータの更新という、同じ形の段取りが問われています。下の表は、3問をその場の対応と原因の側の対応に分けた当サイトの整理です。

サンプル問題 その場の対応 原因の側の対応
PD-M問2 SDが回避策を適用してインシデントを解決 開発課や運用チームが回避策を作り、既知の誤りとして記録(問題管理)
DM科目B問1 分析する部門が独自の修正を加えてレポート データを生成した営業部が業務ルールの徹底を主導
DM科目B問2 電話番号の形式をそろえて結合 根本の課題を、チャネル横断の顧客識別子がないことと特定

PD-M問2:問題管理の記録が、インシデント管理で使われているか

PD-Mのサンプル問2では、K社のサービスデスク(SD)がSPOCとして利用者の申告を受け付けます。SDの解決担当者は、まず問題管理ファイルから既知の誤りを調べ、回避策が見つかればそれで解決し、見つからなければ開発課か運用チームへエスカレーションします。既知の誤りは、開発課や運用チームが問題管理の活動として、回避策と一緒に記録したものです。本文の問題管理プロセスは、回避策の策定と記録までが書かれ、その先の手順は(省略)とされています。

つまり2つのプロセスは、問題管理ファイルでつながっています。問題管理が回避策を記録し、インシデント管理がそれを引いて使う、という関係です。

問題文の手順を、担い手ごとに図にしました。手順3で記録が見つからないと、手順4の記録がいくらあっても生かされません。G課長が見つけたのは、この切れ目です。

PD-M 問2:インシデント管理と問題管理のつながり

  1. 利用者障害や問い合わせを申告する
  2. SD(インシデント管理)SPOC として申告を受け付ける
  3. SD(インシデント管理)問題管理ファイルで既知の誤りを調べる改善の対象:前月にエスカレーションした30件のうち15件は、同じファイルに回避策があった
    • 回避策が見つかった回避策を当てて解決する
    • 見つからない開発課・運用チームへエスカレーション前月は100件のうち30件
  4. 開発課・運用チーム(問題管理)回避策を作り、既知の誤りとして記録する記録は問題管理ファイルに入り、手順3で SD が調べる
図:PD-M サンプル問2の問題文をもとに当サイトで作成。件数は問題文の前月の実績。

G課長が月次のレビューで見つけたのは、このつながりの切れ目でした。前月の100件のうち30件がエスカレーションされ、そのうち15件は、開発課が同じ問題管理ファイルを検索して回避策を見つけています。記録はあったのに、SDの段階では見つからなかったことになります。改善を調べる対象は手順「既知の誤りの調査」で、答えはエです(空欄aは利用者)。

この問題で問われているのは、インシデントと問題という言葉の区別そのものより、記録と件数から「どの手順が働いていないか」を読み取ることです。エスカレーションの30件を見て、エスカレーションの手順を疑うと外れます。

DM科目B問1:同じ流れを、データの責任の所在で問う

DMの科目Bサンプル問1では、マーケティング部のBさんが、データ基盤の「商談確度」に、データカタログの意味欄にない“C”や“引合中”の値と、未入力のデータを見つけます。Bさんは4つのアクションを立て、空欄aに報告先、b〜dに各段階の責任を負う部門を入れます。

アクション 内容 空欄に入る部門
1報告 品質の問題を報告する(空欄aは報告先) 営業部(データオーナー)
2暫定対応 戦略会議に間に合わせるため、Bさんが独自の修正ルールでレポートを作る マーケティング部
3恒久対策 意味欄にない値が出ないよう、業務ルールの徹底などを主導する 営業部
4メタデータの更新 データカタログの意味欄を正しく直す 営業部

正解はウです。IPAは出題趣旨で、この問題を、データ品質の問題を発見した際の一連のプロセス(報告、暫定対応、恒久対策、メタデータ管理)で、データの責任主体を正しく判断する能力を問うものとしています。

PD-M問2と並べると、その場の対応と原因の側の対応で、担い手が分かれている点が共通しています。暫定対応を担うのは、利用者や業務に近い側です。PD-Mでは利用者の窓口であるSDが回避策を当て、DMではデータを使うBさんが修正を加えます。原因の側の対応(PD-Mでは問題管理、DMでは恒久対策)を担うのは、原因に近い側です。PD-Mでは販売システムを開発・運用する開発課や運用チーム、DMではデータを生成した営業部です。

違うのは、DMでは暫定対応の責任まで問われる点です。A社のルールでは、データに独自の修正を加えてレポートを作った部門が、その成果物のデータオーナーになります。急いで直したレポートの数値の説明責任は、直したマーケティング部が負います。

アクション4の意味欄の更新は、PD-M問2で問題管理が既知の誤りを記録するのと同じ位置にある、と当サイトでは見ています。原因の側が記録を直しておかないと、次に同じデータを使う人が、また同じ問題に当たります。カタログの中身をデータオーナーが更新するという点は、メタデータの記事でも扱っています。

DM科目B問2:暫定対応を選ぶ前に、根本の課題を名指しする

DMの科目Bサンプル問2は、ECサイトと店舗の顧客データを結合する場面です。正解のオは、根本の課題を「EC サイトと実店舗それぞれで顧客を一意に識別する顧客 ID が,販売チャネル横断の顧客識別子として機能しないこと」とし、経営陣の至急の要求には、電話番号の形式を整えて結合キーにする暫定対応で応えるものでした。IPAは出題趣旨で、表面的な技術課題と本質的なガバナンス上の課題を切り分ける能力と、現実的な暫定対応を選ぶ能力を挙げています。課題の切り分けの詳しい読み方は、データガバナンスとデータ品質の記事で扱っています。

シラバス案での位置:PD-Mは管理する側、DMは報告する側

PD-Mのシラバス案(Ver.0.2)の科目B「2-3」は、インシデント管理(合意したサービスレベル目標の範囲で、影響を受けたサービスを回復する)、問題管理(根本原因を決め、発生や再発を防ぐ処置を定義する)に加えて、活動を監視・測定・分析して評価するスキルを挙げています。科目Aの用語例にも、既知の誤り、ワークアラウンド、根本原因、機能的エスカレーションと階層的エスカレーションが並んでいます。仕組みを回し、記録から改善点を見つける立場です。

DMのシラバス案(Ver.0.1)の科目B「1-4」は、品質の問題について、影響範囲を整理し、発生原因を調べ、改善のアイディアをデータ主管組織などに伝えるスキルを挙げています。データオーナー、データ主管組織、IT部門ごとの責任範囲を説明できることも含まれます。科目Aのデータガバナンスの項目には、エスカレーションルール(問題対処ルール)と、責任と権限(アカウンタビリティ)があります。自分で根本原因を直すより、ルールに沿って正しい相手に伝える立場です。

ITパスポートのシラバス案(Ver.0.1)にも、サービスマネジメントの用語例として、サービスデスク、SPOC、インシデント管理、エスカレーションが入っています。ITパスポートの水準では、これらの言葉の意味を押さえておけば足ります。

学ぶ順番:言葉 → 段階ごとの責任者 → 記録から改善点を探す

学ぶ順番

  1. ITパスポート言葉SPOC とエスカレーション
  2. DM段階ごとの責任者報告・暫定対応・恒久対策・メタデータの更新
  3. PD-M記録から改善点を探す件数の差から、働いていない手順を読む
図:この記事が勧める学ぶ順番。各段の詳しい説明は、下の番号の項目にある。
  1. ITパスポートの範囲で、SPOCは利用者にとって窓口が1つであること、エスカレーションは自分で解決できない案件を決まった相手に引き継ぐことを押さえる。
  2. DMの範囲で、報告・暫定対応・恒久対策・メタデータの更新の4段階と、それぞれを誰が担うかを、自社のルールに当てはめて言えるようにする。暫定対応の結果に責任を持つのは、手を加えた部門である点に注意する。
  3. PD-Mの範囲で、インシデント管理と問題管理の手順を表で追い、件数の差(100件、30件、15件のような数字)が、どの手順の不具合を指しているかを読む練習をする。

参考にした資料