PD試験 マネジメント

PD試験(仮称)マネジメント区分 サンプル問3(予算超過時のスコープ定義)の解説

プロフェッショナルデジタルスキル(マネジメント)試験(仮称)の科目Bサンプル問3を、スマホで解いて確かめられます。下線①の二つの条件に、5つの進め方を1つずつ当てはめ、表1の回収期間と昨年度の失敗の原因から選ぶ解き方と、選択肢ごとの根拠を解説します。

PD試験 マネジメント

科目Bサンプル問題 問3

IPA 公表問題

A 社は SaaS(以下,A サービスという)を顧客に提供し,定期的に顧客からの機能追加要望に対応するリリースを実施しているが,A サービスの機能追加の開発投資が当初計画より増えて,A 社では資金繰りが悪化している。A サービスの収益は,顧客との従量制の利用料金での継続利用契約と,A サービスの事業運営に大きな影響がある大口顧客からの固有の機能追加の要望に個別料金で対応する個別契約に支えられている。継続利用契約は長期的に収益を安定化させるが,契約顧客が少ないと開発費の回収には期間を要する。一方,大口顧客との個別契約は短期的な資金繰りの改善に寄与する。

昨年度の機能追加のリリースでは,顧客が参加するリリース前の運用訓練で,機能追加要望に対する A 社の認識誤りに起因する不具合が発覚して,一部機能のリリースが中止となった。これによって一部の顧客が不信感をもち,本年度になって A サービスからの離脱を検討していることが判明した。さらに,他の顧客からもリリース中止のような事態の再発防止について声があがっている。このままでは今でも厳しい A 社の資金繰りが更に厳しくなるおそれがある。A 社経営層は,この状況を鑑みて,機能追加及び確実なリリースの顧客要望を実現するとともに,A 社の短期的な資金繰りを改善することを目標に,本年度の A サービス機能追加プロジェクト(以下,A プロジェクトという)を立ち上げ,X 氏をプロジェクトマネージャに任命した。X 氏は,A サービスの過去からのバックログを含む機能追加の顧客要望の特性,及び開発費の回収方法を表 1 のように整理した。

表 1 機能追加の顧客要望の特性と開発費の回収方法
分類顧客要望の特性開発費の回収方法
要望 1制度改正への対応など多くの顧客からの要望で,多数の顧客の継続利用につながるので,開発の優先度は要望 2 よりも高い。A プロジェクトで対応予定の要望について,顧客に意向をヒアリングしている。大多数の顧客からの利用料金で,1 年~2 年程度の期間で開発費を回収する。
要望 2一部の顧客からの要望である。要望している顧客以外の顧客に利用の意向確認をしている。実現した場合は機能を利用する顧客からの利用料金で,3 年~5 年程度の期間で開発費を回収する。
要望 3主に大口顧客からの固有の要望であり,他の顧客の継続利用にはつながりにくい。要望している顧客と開発費の負担について合意すれば,開発費をリリース時に顧客に請求して回収し,保守費も継続的に顧客に請求して回収する。

X 氏が,過去からのバックログを含む機能追加の顧客要望を全て実現した場合の開発費を見積もったところ,A プロジェクトの予算を大幅に超過した。X 氏は,〔①予算の範囲での顧客の機能追加及び確実なリリースの要望の実現と,A 社の短期的な資金繰りを改善することの二つの条件〕を満たすための A プロジェクトの進め方を経営層に報告することにした。

設問 本文中の下線①の二つの条件を満たすための A プロジェクトの進め方を二つ挙げた組合せはどれか。解答群の中から最も適切なものを選べ。

  • (一) 要望 2 の要望で,要望した顧客以外に利用する意向を示した顧客が少数でもいる要望は,優先して実現する。
  • (二) 運用訓練の期間をこれまでよりも長くして,顧客に不具合の有無をしっかりと確認してもらう。
  • (三) 要望 1 の要望で,顧客にヒアリングした結果,利用する顧客が少ないことが分かったが,そのまま開発を行うこととした。
  • (四) 要望 3 の要望で,大口顧客と費用負担に合意した要望は,優先して実現する。
  • (五) 顧客に要件定義に参加してもらって,定義した要件が顧客の要望に適合しているかどうかを確認する。
解答群
答えと選択肢ごとの根拠を見る

正解:カ((四),(五)) IPA 公表の解答例による

  • ア × 誤り 利用者が少しでもいれば優先してよいと考えた

    2つとも誤り。(一)の要望2は,回収に3年~5年かかる。利用の意向が少数なら回収はさらに遅れ,限られた予算を使って短期の資金繰りを悪くする。(二)は不具合を見つける時期が遅いままで,昨年度のようにリリース直前で中止になる事態を防げない。

  • イ × 誤り 運用訓練を長くすれば確実なリリースになると考えた

    (四)は正しいが,(二)が誤り。昨年度の不具合の原因は「機能追加要望に対する A 社の認識誤り」で,要件の段階で入り込んだもの。運用訓練はリリース直前の工程なので,期間を延ばしても見つかる時期は遅く,見つかれば中止か手戻りになる。訓練が長くなる分,費用もかさむ。

  • ウ × 誤り 優先度が高い分類の要望なら,中身を見ずに進めてよいと考えた

    (五)は正しいが,(三)が誤り。要望1が優先されるのは,多数の顧客の継続利用につながり,利用料金で1年~2年で回収できるから。ヒアリングで利用する顧客が少ないと分かったなら,その前提が崩れている。そのまま開発すると,予算を大幅に超過している中で回収できない費用を増やす。

  • エ × 誤り 利用者が少しでもいれば優先してよいと考えた

    (五)は正しいが,(一)が誤り。要望2は,表1で開発の優先度が要望1より低く,回収に3年~5年かかる。利用の意向が少数の要望を優先すると,予算の範囲に収める条件と,短期の資金繰りを改善する条件の両方に反する。

  • オ × 誤り 運用訓練を長くすれば確実なリリースになると考えた

    2つとも誤り。(二)は不具合を見つける時期が遅いままで,認識誤りを防ぐ手段にならない。(三)は利用する顧客が少ないと分かった要望をそのまま開発するもので,予算を圧迫し,回収も見込めない。

  • カ ○ 正しい

    条件の一つ目「予算の範囲での顧客の機能追加及び確実なリリースの要望の実現」には(五)が効く。昨年度の中止の原因はA社の認識誤りなので,顧客が要件定義に参加し,要件が要望に合っているかを最初に確かめれば,同じ原因の不具合を防げる。条件の二つ目「A 社の短期的な資金繰りを改善すること」には(四)が効く。要望3は費用負担に合意すれば開発費をリリース時に請求でき,本文でも大口顧客との個別契約は短期的な資金繰りの改善に寄与するとしている。

出典:プロフェッショナルデジタルスキル(マネジメント)試験(仮称) 科目B サンプル問題 問3独立行政法人情報処理推進機構(IPA)(掲載)原文を開く(確認)下線①の箇所を〔 〕で囲んで示しました。問題文・表・設問・解答群の文言は原文のままです。

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解説

答えはカ:要望3を優先し、顧客を要件定義に入れる

正解はカ((四),(五))です。IPAは出題趣旨で、この問題を、限られた予算と投資回収方法が異なる多様な顧客要望という制約条件の中で、事業の価値提供と経営状況の改善を両立させるためのスコープ定義の進め方を判断する能力を評価するものとしています。

下線①の条件は、名前は「二つ」でも、中身は3つの要素に分かれます。予算の範囲に収めること、機能追加と確実なリリースを実現すること、短期的な資金繰りを改善することです。5つの進め方のうち、どれか1つの要素に反するものは外れます。最後に残る2つが、要素をすべて満たす組合せになります。

5つの進め方を、条件の要素に当てはめる

進め方 予算の範囲 確実なリリース 短期の資金繰り 判定
(一)要望2で、利用の意向が少数でもあれば優先 反する — 反する(回収に3〜5年) ×
(二)運用訓練を長くする 反する(費用が増える) 防げない(見つかる時期が遅い) — ×
(三)要望1で、利用が少ないと分かっても開発 反する — 反する(回収の前提が崩れる) ×
(四)要望3で、費用負担に合意したものを優先 予算の外で回収 — 改善する(リリース時に請求) ○
(五)顧客に要件定義に参加してもらう — 防げる(認識誤りを最初に正す) — ○

(四)は、資金繰りの条件を満たす唯一の進め方です。表1で要望3は「開発費をリリース時に顧客に請求して回収し,保守費も継続的に顧客に請求して回収する」とされています。本文の冒頭にも「大口顧客との個別契約は短期的な資金繰りの改善に寄与する」とあります。開発費を顧客が負担するので、プロジェクトの予算も圧迫しません。

(五)は、確実なリリースの条件に効く進め方です。昨年度にリリースが中止になった原因は、本文で「機能追加要望に対する A 社の認識誤りに起因する不具合」と特定されています。認識誤りは要件を決める段階で入り込むので、顧客が要件定義に参加して、要件が要望に合っているかを確かめれば、同じ原因の不具合を最初の工程で止められます。

間違えやすいところ:運用訓練を延ばす(二)

(二)は、昨年度の失敗から素直に思いつく対策です。不具合は運用訓練で見つかったのだから、訓練を長くすれば、もっと見つかるだろう、という考え方です。

しかし運用訓練は、リリース直前の工程です。そこで認識誤りが見つかれば、作り直しかリリースの中止になり、昨年度と同じ結果になります。不具合を見つける時期を早めるのではなく、作り込む前に誤りを防ぐのが(五)です。訓練を延ばすぶん費用と期間も増え、予算の条件にも反します。

もう1つの落とし穴は、(三)の要望1です。表1で要望1は「開発の優先度は要望 2 よりも高い」と書かれているので、分類だけで選ぶと進めたくなります。ただし優先度が高い理由は、多数の顧客の継続利用につながり、1年〜2年で回収できるからです。ヒアリングで利用する顧客が少ないと分かったなら、この理由がなくなっています。

時間をかけないコツ:まず資金繰りの条件で絞る

解く時間の目安は5分ほどです(当サイトの推測)。5つの進め方のうち、短期の資金繰りを改善できるのは(四)だけで、ほかの4つは回収に時間がかかるか、費用を増やすものです。

  1. 資金繰りの条件から(四)を入れる。解答群で(四)を含むのは、イ(二),(四)とカ(四),(五)の2つ。
  2. (二)と(五)を比べる。昨年度の失敗の原因が「認識誤り」と書かれているので、要件定義の段階で防ぐ(五)を選ぶ。カに決まる。

表1を読むときは、各要望の「回収の期間と方法」の列を先に見ると、資金繰りに効くものがすぐ分かります。

実務の目で見ると:スコープを削るより、財源の違う要望を分ける

予算を超えたとき、要望を優先度の順に並べて下から削る方法がよく取られます。この問題は、それだけでは足りない場面を描いています。要望ごとに開発費の回収のされ方が違うので、要望3のように顧客が費用を負担するものは、予算の枠とは別の財源で進められます。削る対象を選ぶ前に、要望を回収方法で分けておくと、予算の制約と資金繰りの改善を両立させる余地が見えてきます。

シラバス案(Ver.0.2)の科目Bの項目「3-3. プロジェクトの立ち上げ,計画,実行・管理及び終結のプロセスに関するプロジェクトマネジメント」は、ステークホルダの要求を満たすためにスコープを定義するスキルと、承認された予算の範囲でプロジェクトを実行するために財務状況を管理するスキルを挙げています。この問題は、その2つを同時に問う形になっています。

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