PD試験 マネジメント
PD試験(仮称)マネジメント区分 サンプル問4(AIチャットボットのシステム監査)の解説
プロフェッショナルデジタルスキル(マネジメント)試験(仮称)の科目Bサンプル問4を、スマホで解いて確かめられます。監査チームが想定した5つのリスクと、表1の5つの監査要点を1行ずつ突き合わせ、リスクの一部が抜けている項番を見つける解き方と、選択肢ごとの根拠を解説します。
PD試験 マネジメント
科目Bサンプル問題 問4
IPA 公表問題
B 社は,自社のコールセンター業務において,オペレーターを支援するための AI を利用したチャットボットの導入を計画しており,現在,構想立案後の概念実証(以下,PoC という)の段階である。コールセンターとシステム部は,協議して作成した構想立案書を基に作成した PoC 計画書に基づき PoC を実施し,その結果を PoC 評価書としてまとめたところであり,監査部はシステム監査を実施することにした。
〔チャットボット導入計画の概要のヒアリング結果〕
(1) 概念実証
コールセンターは,PoC 計画書に基づき,問合せの顧客音声(以下,学習データという)とオペレーターの回答音声(以下,教師データという)の 1 か月分を準備した。システム部は,準備したデータを AI に学習させ,PoC の実施結果を PoC 評価書としてまとめた。ただし,PoC の実施結果に一部想定外の状況が発生しているので,PoC を継続する予定である。
(2) 開発概要書
システム部は,PoC 評価書を踏まえた開発概要書を作成し,要件定義に向けた準備を進めている。開発概要書には,次のとおり記述されている。
- (ⅰ) システム部が開発し,コールセンターはテスト工程で操作性などを確かめる。
- (ⅱ) テスト工程では,学習データと教師データを新たに 3 か月分準備して学習させ,結果を評価し,想定した結果が得られた場合には本番移行が承認される。
- (ⅲ) 本番移行工程では,学習データと教師データの量を新たに 6 か月分準備して学習と評価を行い,本番運用を開始する。
(3) オペレーター教育
開発概要書には,オペレーター教育について,“現行のマニュアルの中で操作方法が変更になる箇所だけを更新し,業務の繁閑を考慮しながらオペレーターを教育する”と記述されている。
〔監査チームが想定したリスク〕
監査チームは,チャットボット導入計画の概要のヒアリング結果を踏まえて,次のとおりリスクを想定した。
(1) PoC 工程
継続する予定の PoC の計画が曖昧なことによって,PoC の実施結果の良否を判断できず,PoC の終了を判断できない。また,評価結果が不明確なことによって,開発計画が不確かなものとなり,期待どおりのチャットボットを開発できない。
(2) 要件定義工程
構想立案書の内容が要件定義書に反映されないことによって,期待される効果が実現できない。
(3) 設計・実装・テスト工程
要求される品質を満たす学習データと教師データを選定,準備して学習させ,結果を評価しないことによって,不適切な回答を生成する。
(4) 本番移行工程
本番移行工程とテスト工程で,学習結果を評価する指標が整合していないことによって,要求される回答の精度を満たさない。
(5) オペレーター教育
オペレーターの多忙によって教育が不十分な場合,AI が示した誤った結果をそのまま顧客に回答する。
〔監査要点の整理〕
監査チームは,想定したリスクを踏まえて,表 1 のとおり監査要点を整理した。
| 項番 | 工程 | 監査要点 |
|---|---|---|
| (1) | PoC 工程 | PoC 工程の計画,評価基準,評価結果は明確か。 |
| (2) | 要件定義工程 | 構想立案書の内容を踏まえて,要件定義書を作成する計画となっているか。 |
| (3) | 設計・実装・テスト工程 | 要求品質を満たすための学習データと教師データを準備する計画となっているか。 |
| (4) | 本番移行工程 | テスト工程で学習結果を評価する指標と同じ指標で評価する計画となっているか。 |
| (5) | オペレーター教育 | AI の特性を踏まえたオペレーター教育の内容を検討し,実施する計画となっているか。 |
監査部長は,監査要点をレビューし,“〔監査チームが想定したリスク〕に照らしてみると,不十分な監査要点があるので見直すこと”と指示した。
設問 監査部長が見直すように指示した監査要点に対応する表 1 中の項番はどれか。解答群のうち,最も適切なものを選べ。
答えと選択肢ごとの根拠を見る
正解:ウ(項番(3)) IPA 公表の解答例による
ア × 誤り 「計画が曖昧」というリスクの言葉に引きずられた
リスク(1)は,PoCの計画が曖昧で良否を判断できないこと,評価結果が不明確で開発計画が不確かになること。監査要点(1)は「計画,評価基準,評価結果は明確か」で,計画・判断の基準・結果の3つをすべて押さえている。リスクと監査要点が対応しているので,見直す必要はない。
イ × 誤り リスクと監査要点の言い回しの違いを,不足と取り違えた
リスク(2)は,構想立案書の内容が要件定義書に反映されないこと。監査要点(2)は「構想立案書の内容を踏まえて,要件定義書を作成する計画となっているか」で,同じ点を確かめている。
ウ ○ 正しい
リスク(3)は,学習データと教師データを「選定,準備して学習させ,結果を評価しない」ことで不適切な回答を生成すること。監査要点(3)は「準備する計画となっているか」だけで,学習させた結果を評価する計画になっているかを確かめていない。リスクの後半が監査要点から抜けているので,不十分になる。
エ × 誤り 本番移行でデータの量が変わる点を,監査要点の不足と取り違えた
リスク(4)は,本番移行工程とテスト工程で評価の指標が整合しないこと。監査要点(4)は「テスト工程で学習結果を評価する指標と同じ指標で評価する計画となっているか」で,整合をそのまま確かめている。データの量が3か月分から6か月分に変わることは,リスク(4)の内容ではない。
オ × 誤り 「多忙」の一語だけで,監査要点が足りないと考えた
リスク(5)は,教育が不十分なため,AIの誤った結果をそのまま顧客に回答すること。監査要点(5)は「AI の特性を踏まえた」教育の内容と「実施する計画」の両方を確かめている。AIが誤ることを踏まえた内容か,多忙でも実施できる計画かを見られるので,リスクに対応している。
解説
答えはウ:項番(3)は「評価」の確認が抜けている
正解はウ(項番(3))です。IPAは出題趣旨で、この問題を、AIチャットボットの導入計画に係るシステム監査を題材に、PoCの実施、学習データ・教師データの準備、学習結果の評価など、AIシステム開発に特有のリスクを踏まえて監査要点を設定し、整理する能力を評価するものとしています。
監査部長の指示は「〔監査チームが想定したリスク〕に照らしてみると,不十分な監査要点がある」です。リスクと監査要点は、工程ごとに(1)〜(5)で1対1に並んでいます。各行で、リスクに書かれた要素がすべて監査要点で確かめられるかを見れば、1つだけ欠けている行が見つかります。
リスクと監査要点を、1行ずつ突き合わせる
| 項番 | リスクの要素 | 監査要点で確かめること(判定) |
|---|---|---|
| (1) PoC | 計画が曖昧、良否を判断できない、評価結果が不明確 | 計画、評価基準、評価結果は明確か(足りている) |
| (2)要件定義 | 構想立案書の内容が要件定義書に反映されない | 構想立案書を踏まえて要件定義書を作る計画か(足りている) |
| (3)設計・実装・テスト | データを選定・準備して学習させ、結果を評価しない | データを準備する計画か(評価が抜けている) |
| (4)本番移行 | テストと本番で評価の指標が整合しない | テストと同じ指標で評価する計画か(足りている) |
| (5)オペレーター教育 | 多忙で教育が不十分になり、AIの誤りをそのまま回答する | AIの特性を踏まえた教育の内容と、実施の計画(足りている) |
項番(3)のリスクは「要求される品質を満たす学習データと教師データを選定,準備して学習させ,結果を評価しないことによって,不適切な回答を生成する」です。要素は、データを選定・準備すること、学習させること、結果を評価することの3つです。監査要点(3)は「要求品質を満たすための学習データと教師データを準備する計画となっているか」で、確かめているのはデータの準備までです。学習させた結果を評価する計画になっているかは、どこでも確かめていません。
AIのシステムでは、データをそろえても、学習の結果が期待どおりになるとは限りません。本文のPoCでも、1か月分のデータで学習させた結果に「一部想定外の状況が発生している」と書かれています。評価の計画がなければ、不適切な回答を生む状態のまま次の工程に進むおそれがあります。
間違えやすいところ:PoCと教育の行
ア(項番(1))を選ぶのは、リスク(1)の「計画が曖昧」という言葉が強く印象に残る場合です。ただ、曖昧なのはB社のPoCの計画で、監査要点ではありません。監査要点(1)は計画・評価基準・評価結果の3つを確かめており、リスクの要素を覆っています。
オ(項番(5))は、リスク(5)の「オペレーターの多忙」に監査要点が触れていないように見える行です。しかし監査要点(5)は「実施する計画となっているか」まで確かめています。開発概要書の「業務の繁閑を考慮しながらオペレーターを教育する」という記述が、多忙でも実施できる計画になっているかは、この監査要点で見られます。「AI の特性を踏まえた」教育内容の確認は、AIの誤った結果をそのまま回答するリスクに対応しています。
エ(項番(4))で迷う場合もあります。開発概要書では、テスト工程が3か月分、本番移行工程が6か月分と、データの量が違います。ただ、リスク(4)が問題にしているのは評価の指標の整合で、データの量ではありません。監査要点(4)は同じ指標で評価する計画かを確かめているので、足りています。
時間をかけないコツ:リスクの動詞を数える
解く時間の目安は4分ほどです(当サイトの推測)。前半のヒアリング結果は読み飛ばしても解けます。先に〔監査チームが想定したリスク〕と表1だけを読み、各行でリスクに出てくる動詞(選定する、準備する、学習させる、評価する)が監査要点にも出てくるかを数えます。リスク(3)は動詞が4つあるのに、監査要点(3)には「準備する」の1つしかありません。この差に気づけば、ほかの行を細かく比べる前に答えが決まります。
実務の目で見ると:AIの監査は「データ」と「評価」を分けて見る
従来のシステム開発の監査では、要件どおりに作られ、テストされたかを確かめれば、品質の見通しが立ちました。AIを使うシステムでは、同じプログラムでも、学習させるデータと、その結果の評価によって振る舞いが変わります。そのため、データの準備と、学習結果の評価を、別々の監査要点として確かめる必要があります。この問題の項番(3)は、データの準備だけを見て評価を見落とすという、AIの監査で起きやすい抜けを題材にしています。
シラバス案(Ver.0.2)の科目Bの項目「4-3. 情報セキュリティ,新技術(AI ほか)の利活用などに関する監査の実施及び報告」は、新技術の利活用について、監査対象領域のリスクを識別・評価して個別監査計画を策定するスキルや、監査手続書を作成するスキルを挙げています。リスクから監査要点を導き、抜けがないかを確かめる作業は、その中心にあたります。
参考にした資料
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)(確認)