PD試験 データ・AI
PD試験(仮称)データ・AI区分 サンプル問1(データコントラクトの変更)の解説
プロフェッショナルデジタルスキル(データ・AI)試験(仮称)の科目Bサンプル問1を、スマホで解いて確かめられます。データの意味を変えたときの通知と再合意、新規契約時の確認ルールを、選択肢ごとに解説します。
PD試験 データ・AI
科目Bサンプル問題 問1
IPA 公表問題
A 社は,全社データ基盤において,中央のデータ管理部門にデータ管理の責任を集中させず,各部門がデータのオーナーシップをもつ分散型のデータマネジメント方針を採用している。
営業部門は,プロバイダー(提供者)として“顧客別月間売上データプロダクト”を公開している。A 社では,データプロダクトにアクセスするためには,コンシューマー(利用者)がデータコントラクトの品質や仕様を確認し,システム上で利用合意の手続を行うルールとしている。コンシューマーであるマーケティング部門は,このデータプロダクトの仕様を定めたデータコントラクト(以下,データコントラクトv1 という)に利用合意し,解約予測AI のインプットとして運用している。なお,A 社は,データの乱立を防ぐために,データコントラクトの複数バージョンの並行公開を禁止している。マーケティング部門が利用しているデータコントラクトv1 を図1 に示す。
図1 データコントラクトv1(抜粋)
- schema:
- - name: customer_id
- type: string
- - name: amount
- type: decimal
- description: "顧客の月間売上金額(単位:千円)"
- description_approved: true
- quality_slo:
- completeness:
- - name: customer_id
- allow_null: false
- 注記 YAML 形式で記述している。
ある日,営業部門は,データコントラクトv1 を参照した経営企画部門から,“新規に利用したいが,ダッシュボード用に円単位のデータがほしい”という要望を受けた。
この要望を受けて,営業部門は,新規で円単位のカラムを用意することも検討したが,既存の物理名(amount)の一般的な意味合いに合わせる方がよいと独自の判断をして,データ基盤上の実テーブルの既存カラムの値を円単位に変更する方針にした。また,既存の仕様を担保するために,千円単位の元のデータを格納するamount_k カラムを実テーブルに新たに追加し,データコントラクトも新バージョン(以下,データコントラクトv2 という)に更新した。この際,営業部門は,amount を円単位に変更した旨を経営企画部門に伝えたが,マーケティング部門には伝えていなかった。
A 社では,データコントラクトを更新する際,AI がカラム名と実データの数値から推測して説明文(description)を自動生成する補助ツールを導入している。ここで,人間が一度確定させたデータ定義をAI が誤って上書きしてしまうことを防ぐために,未承認(description_approved: false)に設定されたカラムだけを生成対象とし,その結果をプロバイダーが確認・修正した後に承認(description_approved: true)とする仕組みとしている。今回のデータコントラクトの修正時にはamount カラムのdescription_approved はtrue のまま変更せずに,amount_k カラムだけ説明文をAI で自動生成した。営業部門が生成された説明文を確認して承認した後の,データコントラクトv2 を図2 に示す。
図2 データコントラクトv2(抜粋)
- (省略)
- - name: amount
- type: decimal
- description: "顧客の月間売上金額(千円単位)"
- description_approved: true
- - name: amount_k
- type: decimal
- description: "顧客の月間売上金額(千円単位)"
- description_approved: true
- (省略)
- 注記 YAML 形式で記述している。
経営企画部門は,利用合意しようと図2 を確認したとき,amount の説明文における単位が千円のままであることに気付いた。営業部門からamount の単位は円単位であると聞いていたが,自部門の利用としては問題ないと判断し,合意した。
後日,経営企画部門のダッシュボードは正常に稼働した。一方,マーケティング部門の解約予測AI は顧客の売上げが突如1000 倍になったと誤認し,優良顧客であると判定して,解約確率について極端に低い数値を予測するという異常を引き起こした。データマネジメント担当のB さんが調査した結果,この事象の原因として,[ a ]が特定された。
B さんは,本件における課題の解消のために,プロバイダーとコンシューマーが遵守すべき新たなガイドラインを制定した。コンシューマー向けの3 か条を次に示す。
- 第1 条 新規契約時:[ b ]
- 第2 条 契約変更時:利用合意中のデータコントラクトに変更の要望がある場合は,プロバイダーに通知すること。ただし,プロバイダー主導で他のコンシューマーと協議の上,変更可否が判断される。
- 第3 条 契約破棄時:システムの廃止などによってデータの利用が不要になった場合は,速やかに利用合意を解除し,プロバイダーに通知すること。
新たなガイドラインを周知して運用を徹底したことによって,データの仕様の不一致に起因する同様の事象は発生しなくなった。
設問 本文中の[ a ],[ b ]に入れる字句の組合せはどれか。解答群の中から最も適切なものを選べ。
- (一) 営業部門が既存データのセマンティクスを変更したにもかかわらず,説明文のメタデータの見直しを怠ったことと,後方互換性のない破壊的変更を既存利用者のマーケティング部門に通知して再合意を得なかったこと
- (二) 営業部門が既存データのセマンティクスを変更した際,AI の自動生成の補助ツールが未承認フラグのカラムだけを対象とし,テーブル全体のデータ定義を再スキャンする仕様になっていなかったので,営業部門が既存データに対する説明文のメタデータの見直し漏れを検知できなかったこと
- (三) 経営企画部門が既存のデータコントラクトに対して新たな要求を出したことが,amount の値を千円単位から円単位へ変更するという事象を引き起こし,マーケティング部門の解約予測AI に影響を与えたこと
- (四) 実データをダウンロードして独自の統計分析ツールで単位や欠損の有無をチェックし,データコントラクトと差異がないことを確認して利用合意すること。
- (五) 提示されたデータコントラクトの定義に内容の矛盾や不備がある場合は,プロバイダーに修正を要求し,正しい定義が反映されてから利用合意すること。
- (六) データの仕様がデータコントラクトと異なっていた場合に発生するAI の誤予測などのビジネス損失について,事前にプロバイダーに報告すること。
答えと選択肢ごとの根拠を見る
正解:イ(a (一)/b (五)) IPA 公表の解答例による
ア × 誤り 利用者が実データを自分で検査すれば、定義の誤りを見つけられると考えた
a (一)/b (四)
a は(一)で正しい。b の(四)が誤り。実データの値を統計ツールで調べても、単位が千円か円かを決める根拠は値の中にない。今回の問題は、契約の記述(amount は千円単位)と、営業部門から聞いた内容(円単位)が食い違っていたこと。条文に入れるべきは、定義の矛盾に気づいたら提供者に直させ、直ってから合意する手順で、(五)が当たる。
イ ○ 正しい
a (一)/b (五)
a:営業部門は amount の意味を千円から円に変えたのに、amount の description_approved を true のままにして、説明文を見直さなかった。補助ツールは未承認のカラムだけを対象にするので、確定済みの説明文は人が見直すしかない。さらに、既存の利用者であるマーケティング部門に、破壊的な変更を通知して再合意を得なかった((一))。b:経営企画部門は、amount の説明文が千円のままだと気づきながら、そのまま合意した。矛盾に気づいたら提供者に直させ、直ってから合意する、という新規契約時のルールがあれば防げた((五))。
ウ × 誤り 損害の見込みを伝えておけば、仕様の不一致は防げると考えた
a (一)/b (六)
a は(一)で正しい。b の(六)が誤り。AI の誤予測などのビジネス損失を事前に報告するのは、起きた後の影響を伝える話で、データの仕様と契約の記述がずれるのを防ぐ手順ではない。新規契約時に必要なのは、契約の記述に矛盾があれば直させたうえで合意すること((五))。
エ × 誤り 原因を補助ツールの仕様に求め、利用者側の確認も実データの検査で足りると考えた
a (二)/b (四)
a・b ともに誤り。a の(二)の補助ツールは、人が確定させた定義をAI が上書きしないように、未承認のカラムだけを対象にする設計で、本文でも意図した仕組みとして書かれている。原因は、意味を変えた営業部門が説明文を見直さず、既存の利用者に通知しなかったこと((一))。b の(四)は、実データの検査では契約の記述の矛盾を直せない。
オ × 誤り 原因を補助ツールの仕様に求めた
a (二)/b (五)
b は(五)で正しい。a の(二)が誤り。補助ツールが未承認のカラムだけを対象にするのは、確定済みの定義をAI が誤って上書きしないための設計で、本文で意図した仕組みとして書かれている。「全体を再スキャンする仕様でなかった」ことは原因ではなく、営業部門が amount の説明文を見直さず、マーケティング部門に通知して再合意を得なかったことが原因((一))。
カ × 誤り 原因を補助ツールの仕様に求め、損害の報告で防げると考えた
a (二)/b (六)
a・b ともに誤り。a の(二)は、補助ツールの設計を原因にしているが、人が確定させた定義を上書きしない仕様は意図したもの。原因は(一)。b の(六)は、損害の見込みを伝える内容で、仕様の不一致を防ぐ手順ではない。(五)が当たる。
キ × 誤り 要望を出した利用者が原因だと考えた
a (三)/b (四)
a・b ともに誤り。a の(三)は、経営企画部門の要望が原因だとしているが、要望は発端にすぎない。新規で円単位のカラムを用意する選択肢もあったのに、既存カラムの値を変えると決めたのは営業部門で、通知も再合意もしなかった((一))。b の(四)は、実データの検査では契約の記述の矛盾を直せない。
ク × 誤り 要望を出した利用者が原因だと考えた
a (三)/b (五)
b は(五)で正しい。a の(三)が誤り。経営企画部門の要望が amount の値を変えたのではなく、既存カラムの意味を変えると独自に判断したのは営業部門。原因は、その変更で説明文を見直さず、既存の利用者に通知して再合意を得なかったこと((一))。
ケ × 誤り 要望を出した利用者が原因だと考え、損害の報告で防げると考えた
a (三)/b (六)
a・b ともに誤り。a の(三)は、要望を出した経営企画部門を原因にしているが、既存カラムの意味を変えたのは営業部門の判断。原因は(一)。b の(六)は、起きた後の損害を伝える内容で、仕様の不一致を防ぐ手順ではない。(五)が当たる。
解説
答えはイ:意味の変更を知らせなかったことと、矛盾を直させずに合意したこと
正解はイ(aが(一)、bが(五))です。IPAは出題趣旨で、この問題を、データの提供者と利用者が守るガイドラインの策定を題材にしたものとしています。データの意味の変更が与える影響、データコントラクトによる品質の担保、提供者と利用者の責任を理解して、ルールを作る能力を評価するとされています。
2つの空欄は、別々の話です。空欄aは事故の原因で、空欄bは新規契約時に利用者が守る条文です。それぞれ決めてから、解答群の組合せを探します。
空欄a:原因は、営業部門の2つの落ち度
事故の流れを順に追うと、次のようになります。
- 営業部門が amount の値を千円単位から円単位に変えた。
- amount の説明文は、承認済み(description_approved: true)のまま、千円単位と書かれていた。
- マーケティング部門には、変更を知らせていなかった。
- マーケティング部門の解約予測AIは、売上が1000倍になったと誤認した。
この流れから、原因は(一)の2つです。意味を変えたのに説明文を見直さなかったことと、既存の利用者に通知して再合意を得なかったことです。
(二)は、補助ツールが未承認のカラムだけを対象にしていたことを原因にしています。しかし本文は、その仕様を、人が確定させた定義をAIが誤って上書きしないための仕組みとして書いています。誤りを防ぐために入れた仕組みで、今回の原因ではありません。(三)は、円単位のデータがほしいと要望した経営企画部門を原因にしています。要望は発端ですが、新規のカラムを用意する選択肢もあったのに、既存のカラムの意味を変えると決めたのは営業部門です。
空欄b:矛盾に気づいたら、直させてから合意する
経営企画部門は、図2のamountの説明文が千円のままだと気づいていました。営業部門からは円単位だと聞いていたのに、「自部門の利用としては問題ない」と判断して合意しています。ここに、新規契約時のルールの穴があります。
| 選択肢 | 内容 | 判断 |
|---|---|---|
| (四) | 実データを自分で検査して、契約と差異がないと確認してから合意する | 値を調べても、単位が千円か円かは決まらない。契約の記述が矛盾しているときの手順がない |
| (五) | 定義に矛盾や不備があれば、提供者に修正を求め、直ってから合意する | 今回の場面で、合意の前に止められる |
| (六) | 誤予測などの損失を、事前に提供者に報告する | 損害の見込みを伝えるだけで、仕様のずれを防ぐ手順ではない |
aが(一)、bが(五)になり、イだけが残ります。
間違えやすいところ:原因を別の人や仕組みに置く
誤答は、原因を別の人や仕組みに置いた選択肢です。補助ツールの仕様に原因を置くと、(二)に引かれます。要望を出した人に原因を置くと、(三)に引かれます。どちらも、意味を変えた営業部門の判断と、通知しなかったことに触れていません。
本文で決定的な動きをしたのは営業部門です。「独自の判断をして」「マーケティング部門には伝えていなかった」という部分が、(一)の根拠になります。
時間をかけないコツ:空欄ごとに外す
解く時間の目安は5分ほどです(当サイトの推測)。空欄aは、(二)(三)が本文の記述と合わないことを確かめるだけで(一)に決まり、解答群はア・イ・ウの3つに減ります。空欄bは、(四)と(六)がどんな問題を解くための条文かを考えると、(五)が残ります。
実務の目で見ると:データコントラクトは「変更の約束」でもある
データを提供する側と使う側が離れている組織では、仕様の変更をどう扱うかが、事故を防ぐ要になります。この問題のA社は、データコントラクトの複数バージョンの並行公開を禁止していました。v1とv2を並行して公開できないので、更新すると、v1の利用者も新しい定義のデータを受け取ることになります(並行公開の禁止から導ける範囲の推論です)。意味を変える変更は、値の形が同じでも既存の利用者の処理を壊します。変更の前に利用者へ通知し、改めて合意を取る流れが必要です。
シラバス案(Ver.0.1)の科目Bの項目「1-4」には、データの提供者と利用者の間で、仕様、品質水準、利用条件、責任分担をデータ契約として定め、変更管理プロセスを設計するスキルが含まれています。この問題は、その変更管理を、事故の原因の特定とガイドラインの策定の形で問うものです。
この解説について
問題と解答例はIPAの公表物です。選択肢ごとの根拠と解き方は、当サイトが書いた解説で、IPAの公式な解説ではありません(IPAは解説を公表していません)。出典は、IPAの「プロフェッショナルデジタルスキル(データ・AI)試験(仮称)科目Bのサンプル問題」(2026年10月30日掲載)です。問題文は出典を明記して、教育目的で載せています。IPAによると、サンプル問題は新しい出題分野と形式のイメージを共有するためのもので、実際の試験と同様の問題作成やチェックのプロセスを経たものではありません。
参考にした資料
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)(確認)