PD試験 データ・AI
PD試験(仮称)データ・AI区分 サンプル問2(利益の散布図行列と回帰分析)の解説
プロフェッショナルデジタルスキル(データ・AI)試験(仮称)の科目Bサンプル問2を、スマホで解いて確かめられます。散布図行列の読み方と、重回帰分析の係数・切片・決定係数の読み方を、選択肢ごとに解説します。
PD試験 データ・AI
科目Bサンプル問題 問2
IPA 公表問題
あるEC サイトの毎月の利益を最大化することを目標に,利益に関連するデータ間の関係性を確認したい。利益は次式で計算され,固定費は1 か月当たり10(万円)とする。
- 利益(万円) = 売上(万円)ー 訪問者数(万人) × 5(円)
- ー SNS 広告費(万円)ー メール配信数(万通) × 0.5(円)
- ー 固定費(万円)
〔データの可視化〕
利益に関連するデータ間の関係性を確認するために,散布図行列を用いて24 か月分のデータを可視化した。利益,売上,訪問者数,SNS 広告費,メール配信数の各変数を用いて作成した散布図行列を図1 に示す。散布図行列の非対角成分には各変数間の散布図が示されており,対角成分には各変数のヒストグラムが示されている。散布図行列から,[ a ]。
図1(5変数の散布図行列。軸は利益・売上・訪問者数・SNS 広告費・メール配信数)は掲載していません。図は IPA の PDF(5/18ページ)で確認してください。解答群の判断に使う3つの組み合わせについて、図から当サイトが読み取った内容を、次の表に示します。
| 変数の組 | 散布図の見え方 |
|---|---|
| SNS 広告費と売上 | 点がほぼ一直線の右上がりに並ぶ(強い正の相関) |
| メール配信数と利益 | 点が広く散らばり、一定の向きの傾向がない(相関は弱い) |
| SNS 広告費とメール配信数 | 右上がりの傾向は少しあるが、点は広く散らばる(弱い正の相関) |
〔回帰分析〕
次に,EC サイト運営において調整対象のSNS 広告費とメール配信数を説明変数の候補,利益を目的変数の候補とし,幾つかのパターンで回帰分析をすることにした。モデル1 ではSNS 広告費を,モデル2 ではメール配信数を,モデル3 ではSNS 広告費とメール配信数を説明変数にした回帰分析を行ったところ,表1 に示すSNS 広告費の回帰係数,メール配信数の回帰係数,切片及び決定係数R² を得た。回帰分析の結果から,決定係数R² が最大であるモデル3 が,利益の変動を最もよく説明でき,利益の予測に適したモデルであることが分かる。モデル3 の計算結果によると,[ b ]といえる。
| モデル | SNS 広告費の係数 | メール配信数の係数 | 切片 | 決定係数R² |
|---|---|---|---|---|
| モデル1 | 2.334 | (説明変数なし) | ー22.753 | 0.718 |
| モデル2 | (説明変数なし) | 0.220 | 91.031 | 0.064 |
| モデル3 | 3.637 | ー0.586 | ー28.462 | 0.949 |
注記 網掛けはモデルの説明変数ではないことを示す。
設問 本文中の[ a ],[ b ]に入れる字句の組合せはどれか。解答群の中から最も適切なものを選べ。
- (一) SNS 広告費と売上の間には,強い負の相関が見られる
- (二) メール配信数と利益の間には強い正の相関が見られ,利益がメール配信数に依存していることが分かる
- (三) SNS 広告費とメール配信数の間には弱い正の相関が見られ,共線性の存在が示唆されている
- (四) メール配信数が同じであれば,SNS 広告費を1 万円増やすと利益は約3.6 万円増えると予測できる
- (五) 切片がマイナスなので,このモデルでは利益が出ないことを示している
- (六) 決定係数R² = 0.949 なので,このモデルの精度は94.9%である
答えと選択肢ごとの根拠を見る
正解:キ(a (三)/b (四)) IPA 公表の解答例による
ア × 誤り 散布図の向きを読み違えた
a (一)/b (四)
b は(四)で正しい。a の(一)が誤り。SNS 広告費と売上の散布図は、点が右上がりに並んでいて、正の相関。売上が増える月にSNS 広告費も多い。負の相関なら右下がりになる。
イ × 誤り 散布図の向きを読み違え、切片を利益の有無と取り違えた
a (一)/b (五)
a・b ともに誤り。(一)は、SNS 広告費と売上の散布図が右上がり(正の相関)であることと合わない。(五)の切片は、2つの説明変数がともに0のときの利益の予測値を表すだけで、利益が出るかどうかを決めるものではない。
ウ × 誤り 散布図の向きを読み違え、決定係数を精度と取り違えた
a (一)/b (六)
a・b ともに誤り。(一)は、SNS 広告費と売上が右上がり(正の相関)であることと合わない。(六)の決定係数は、利益の変動のうち、モデルで説明できる割合が94.9%という意味。予測が94.9%の確率で当たるという精度ではない。
エ × 誤り 散布図を見ずに、メール配信を増やすほど利益が増えると考えた
a (二)/b (四)
b は(四)で正しい。a の(二)が誤り。メール配信数と利益の散布図は、点が広く散らばっていて、強い正の相関は見られない。表1のモデル2でも、メール配信数だけを説明変数にしたときの決定係数は0.064と小さく、利益の変動をほとんど説明できない。モデル3のメール配信数の係数も負(−0.586)。
オ × 誤り 散布図を見ずにメール配信が利益を左右すると考え、切片を利益の有無と取り違えた
a (二)/b (五)
a・b ともに誤り。(二)は、メール配信数と利益の散布図が広く散らばっていることと合わない。(五)の切片は、2つの説明変数がともに0のときの予測値で、利益が出ないことを表すわけではない。
カ × 誤り 散布図を見ずにメール配信が利益を左右すると考え、決定係数を精度と取り違えた
a (二)/b (六)
a・b ともに誤り。(二)は、メール配信数と利益の散布図が広く散らばっていることと合わない。(六)の決定係数0.949は、利益の変動の94.9%をモデルで説明できるという意味で、予測の精度が94.9%という意味ではない。
キ ○ 正しい
a (三)/b (四)
a:SNS 広告費とメール配信数の散布図は、右上がりの傾向は少しあるが、点が広く散らばっていて、弱い正の相関((三))。説明変数どうしの相関が強いと、回帰係数が不安定になることがある(共線性)。b:モデル3の SNS 広告費の係数は3.637。メール配信数を同じにして SNS 広告費を1万円増やすと、利益は約3.6万円増えると予測できる((四))。
ク × 誤り 切片を利益の有無と取り違えた
a (三)/b (五)
a は(三)で正しい。b の(五)が誤り。切片−28.462は、SNS 広告費とメール配信数がともに0のときの利益の予測値。広告費もメールも使わない月の予測値はマイナス、という読み方はできるが(データの範囲外への当てはめになる)、このモデルでは利益が出ないことを示すわけではない。SNS 広告費を増やすと、係数3.637のぶんだけ利益の予測値は増える。
ケ × 誤り 決定係数を精度と取り違えた
a (三)/b (六)
a は(三)で正しい。b の(六)が誤り。決定係数R² = 0.949は、利益の変動のうち、モデルで説明できる割合が94.9%という意味。予測が94.9%の確率で当たる、という精度ではない。
解説
答えはキ:弱い正の相関と、係数3.6の読み方
正解はキ(aが(三)、bが(四))です。IPAは出題趣旨で、この問題を、散布図行列によるデータの関係性の可視化と、重回帰分析のモデルの評価・解釈を通じて、意思決定につながる洞察をデータから得る能力を評価するものとしています。
空欄aは図を読む問題、空欄bは表を読む問題です。aは散布図行列から、(一)(二)(三)のどれが合うかを決めます。bは表1のモデル3の数字を、(四)(五)(六)のどれで読めるかを決めます。
空欄a:散布図の向きと散らばりを見る
散布図行列は、変数の組ごとの散布図を並べたものです。点が右上がりに並べば正の相関、右下がりなら負の相関、向きがなく散らばっていれば相関が弱い、と読みます。当サイトが図から読み取った内容は、次のとおりです。
| 変数の組 | 散布図の見え方 | 対応する選択肢 |
|---|---|---|
| SNS広告費と売上 | ほぼ一直線の右上がり(強い正の相関) | (一)は「負」なので合わない |
| メール配信数と利益 | 広く散らばり、向きがない | (二)は「強い正」なので合わない |
| SNS広告費とメール配信数 | 少し右上がりだが、広く散らばる(弱い正の相関) | (三)に合う |
(二)は、表1とも合いません。メール配信数だけを説明変数にしたモデル2の決定係数は0.064で、利益の変動をほとんど説明できていません。メール配信数が利益に強く効いているなら、この値はもっと大きくなるはずです。
空欄b:偏回帰係数は「ほかを固定したときの変化」
モデル3は、SNS広告費の係数が3.637、メール配信数の係数が−0.586、切片が−28.462です。
- (四):メール配信数が同じなら、SNS広告費を1万円増やすと、利益の予測値は3.637万円、つまり約3.6万円増えます。重回帰分析の係数は、ほかの説明変数を固定したときの変化量です。
- (五):切片は、SNS広告費もメール配信数も0のときの予測値です。マイナスでも、このモデルで利益が出ないという意味にはなりません。SNS広告費を増やせば、係数のぶんだけ予測値は上がります。
- (六):決定係数0.949は、利益の変動のうち、モデルで説明できる割合が94.9%ということです。予測が94.9%の確率で当たるという意味の「精度」ではありません。
よって、bは(四)です。
間違えやすいところ:決定係数を「精度」と読む
「R²が0.949なので精度は94.9%」は、もっともらしく見える誤りです。決定係数は、目的変数のばらつきのうち、モデルが説明できる割合を表す指標で、予測がどれだけ当たるかを表すものではありません。切片がマイナスだから利益が出ない、も同じ型の誤りで、数値の名前から、実際の意味とは別のことを読み取っています。
散布図では、向きの読み違いにも注意が必要です。(一)は「強い負の相関」ですが、SNS広告費と売上は右上がりです。選択肢を先に読み、相関の向きを図で確かめる順にすると、読み違いを減らせます。
時間をかけないコツ:aとbは独立に決める
解く時間の目安は6分ほどです(当サイトの推測)。aとbは別の問題として解けます。aは(三)に決まり、解答群はキ・ク・ケの3つに減ります。bは(四)が決まれば、キだけです。表1を読むのは(四)(五)(六)の確認のためで、すべての数字を理解しようとしなくて済みます。
実務の目で見ると:説明変数の組合せと係数の安定
SNS広告費とメール配信数の間に弱い正の相関があることは、説明変数どうしが似た動きをする可能性を示します。説明変数どうしの相関が強いと、係数が不安定になることがあります(共線性)。この問題の答えには、共線性が実際に問題になっているかどうかの判断は含まれていません。実務では、説明変数を入れ替えたモデルで係数がどれだけ変わるかも確認します。
シラバス案(Ver.0.1)の科目Bの項目「2-2」と「2-3」には、データの可視化や、相関分析・回帰分析などの統計的手法でデータの関係性を検証するスキルが含まれています。この問題は、その2つを、図の読み取りと係数の解釈で問う形になっています。
この解説について
問題と解答例はIPAの公表物です。選択肢ごとの根拠と解き方は、当サイトが書いた解説で、IPAの公式な解説ではありません(IPAは解説を公表していません)。出典は、IPAの「プロフェッショナルデジタルスキル(データ・AI)試験(仮称)科目Bのサンプル問題」(2026年10月30日掲載)です。問題文は出典を明記して、教育目的で載せています。IPAによると、サンプル問題は新しい出題分野と形式のイメージを共有するためのもので、実際の試験と同様の問題作成やチェックのプロセスを経たものではありません。図1の散布図行列は載せておらず、図の読み取りは当サイトのものです。
参考にした資料
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)(確認)